無痛分娩のご紹介
東京大学医学部附属病院では、ご希望のある妊婦さんに、無痛分娩を実施しております。
産婦人科医・麻酔科医・助産師が密に連携し、安全かつ質の高い無痛分娩を提供できる体制を整えています。無痛分娩の実施にあたっては、産科麻酔に精通した麻酔科医の関与が不可欠です。
無痛分娩をご希望される場合、原則として計画分娩とし、平日日中の時間帯(産科麻酔チームが病棟に常駐している時間帯)に無痛分娩が開始できるように調整しております。これにより、多くの無痛分娩希望の方のご要望に沿うことができています。
自然な陣痛発来に対しても、平日日中であればできる限り対応しておりますが、状況により対応できない場合があること、また原則として夜間・休日には対応できないことをご了承ください。 なお、2025年10月1日より、当院では無痛分娩を24時間365日体制でご提供いたします。
2024年の全分娩数(22週以降)は904件であり、経腟分娩件数は557件 (無痛分娩は327件)、帝王切開分娩件は347件でした。
安全な無痛分娩の提供体制に関して、JALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)に登録・掲載された情報を以下に公開しております。
当院の無痛分娩の方法
当院では、通常、陣痛発来後に「硬膜外麻酔」と呼ばれる方法により無痛分娩を行っています。これは、背中から細いカテーテルを挿入し、局所麻酔薬を注入して持続的に痛みを緩和する方法です。
麻酔開始後は自己疼痛管理装置(PCA装置)を使用し、妊婦さんご自身の痛みの程度に応じて麻酔薬を追加できる仕組みとなっています。
医師・助産師が定期的に訪問し、痛みを和らげ、お産に集中できるようサポートします。 東大病院の無痛分娩に関する説明書(PDF)
計画分娩とは?
無痛分娩を希望される方には、計画的に分娩日を調整しています。初産婦の方は妊娠39〜40週頃、経産婦の方は妊娠38〜39週頃を目安に分娩を予定します。
妊婦健診で子宮口の状態などを確認し、分娩の準備が整っていることを確認したうえで、おおよそ1週以内の計画分娩日をご相談の上で決定します。なお、医学的に早期の分娩が望ましいと判断される場合には、より早い時期に予定を組むこともあります。
入院日
必要に応じて子宮頸管拡張処置を行います。
入院翌日
朝から子宮収縮薬(分娩誘発剤・陣痛促進剤)の点滴、または子宮頸管熟化薬の腟内留置を行います。陣痛が始まったタイミングで硬膜外麻酔を開始します。
無痛分娩のメリットは?
硬膜外麻酔により出産時の痛みを緩和し、痛みではなくお産そのものに向き合い、リラックスして出産することができます。
高血圧や、一部の心疾患・血管疾患・呼吸器疾患・神経疾患などの持病がある方にとっても、無痛分娩により体への負担が軽減すると考えられています。 ただし、飲んでいるお薬 (血液を固まりにくくする薬など) や持病の内容、脊椎の変形や手術歴などによっては、硬膜外麻酔が困難または効果が十分に得られない場合があります。
無痛分娩のリスクは?
1)出産への影響
無痛分娩では、分娩時間が延長する傾向があります。
また、特に初産婦さんにおいては、鉗子分娩・吸引分娩などの器械分娩の割合が高くなることも知られています。
2)赤ちゃんへの影響
無痛分娩による赤ちゃんへの直接的な影響はほとんどありません。
ただし、麻酔の影響でお母さんの血圧が下がると、赤ちゃんにも影響が及ぶことがありますので、お母さんを安全に管理することが重要です。
赤ちゃんに治療が必要な場合は小児科医が対応します。
3)お母さんへの影響
無痛分娩では、麻酔処置による影響と、分娩時間が長くなることに伴う影響が見られることがあります。
- 低血圧
麻酔の影響で血圧が下がることがありますが、点滴やお薬で対応します。 - 足のしびれ・動かしづらさ
麻酔が効いている間に起こることがありますが、お産が終わって麻酔が切れると、徐々に回復します。 - 頭痛(硬膜穿刺後頭痛)
ごくまれに(1%未満)、1週間ほど続く頭痛が起こることがあります。安静や痛み止めで対応します。 - その他の症状
吐き気、かゆみ、発熱、寒気、排尿のしづらさなどが見られることがあります。必要に応じてお薬の使用やカテーテルでの排尿などを行います。
合併症の詳細は、こちら(PDF)をご参照ください。当院では、無痛分娩に関する合併症を想定したシミュレーショントレーニングを定期的に実施しています。
無痛分娩の費用・申込について
無痛分娩は自費診療となり、通常の分娩費用に加えて、麻酔時間が10時間以内の場合12万円、10時間超の場合15万円の追加費用がかかります。
なお、2025年10月1日より無痛分娩の24時間対応を開始することに伴い、料金は改定予定です。
当院は現在、「東京都無痛分娩費用助成等事業における対象医療機関」として申請中です。認定後は、2025年10月1日以降、対象の方は最大10万円の助成が受けられる予定です。
無痛分娩の費用は、硬膜外麻酔を開始した時点で発生します。麻酔の効果や持続時間によって金額が変動することはありません。
ただし、入院費用は入院日数により異なります。 無痛分娩中に帝王切開へ切り替わった場合は帝王切開にかかる費用が別途発生し、その部分は保険診療の対象となります。 無痛分娩をご希望の方は、妊婦健診時に担当医にお申し出下されば、説明・同意書をお渡しします。
同意書を妊婦健診時に医師にご提出いただいた時点で申込完了となります。無痛分娩は計画分娩となるため、遅くとも妊娠37週までにはご提出いただきますようお願いいたします。
産科麻酔チームからのメッセージ
産科麻酔チームでは、無痛分娩に加え、帝王切開を受けられる方の手術前の診察や手術後の回診など、周産期全体にわたって安全な麻酔を提供できるように活動しています。
無痛分娩や帝王切開をはじめ、妊娠中や出産時の麻酔に関してご不明な点がありましたら、どうぞお気軽に産科麻酔チームまでご相談ください。 当院では総合周産期母子医療センターとして、通常のお産から出血や合併症のリスクが高い分娩も多く取り扱っています。すべての妊婦さんに快適で思い通りのお産をご提供することは難しい場合もありますが、産科医・助産師と協力し、安全はもちろんのこと、できる限り快適なお産となるようチーム一丸となって取り組んでいます。