無痛分娩 分娩・入院

無痛分娩のご紹介

東京大学医学部附属病院では、ご希望のある妊婦さんに、無痛分娩(産痛緩和)をおこなっています。
産婦人科医・麻酔科医・助産師が協働し、安全な分娩を実施できる体制を整えております。安全で質の高い無痛分娩を提供するためには産科麻酔に理解のある麻酔科医の関与は不可欠です。
無痛分娩をご希望の方は、原則として計画分娩とし、陣痛が平日日中の産科麻酔チームが病棟に常駐可能な時間帯になるようにすることで、多くの無痛分娩希望の方のご要望に沿うことができています。平日日中に生じた自然な陣痛発来に対してはできる限り対応していますが、状況により対応できないことがあること、原則として夜間・休日には対応できないことをご承知おきください。
2021年の全分娩数は1113件であり、無痛ではない経腟分娩件数は370件、無痛分娩による経腟分娩数は317件、帝王切開分娩件数 426件でした。無痛分娩の割合の推移と、無痛分娩を選択された方の最終的な分娩様式は以下のグラフにお示ししています。

当院の無痛分娩の方法

通常陣痛発来後に「硬膜外麻酔」と呼ばれる背中から細いカテーテルを挿入し、局所麻酔薬の注入による調節可能で持続的な痛み止めの方法により行っています。
麻酔を開始してから分娩までは自己疼痛管理装置(PCA装置)を用いて、妊婦さんご自身の痛みの程度に応じて 痛み止めを追加して調節することが可能です。麻酔科医が定期的に訪問し、痛みではなくお産に向き合っていただくお手伝いをしていきます。
施設により和痛分娩、無痛分娩と呼び方は異なりますが、麻酔科医が関与する施設における産痛緩和は一般に硬膜外麻酔を主体として行われています。東大病院では和痛分娩として行っていたため、和痛分娩と無痛分娩の両方の表記がありますが、内容としては同じものになります。

計画分娩とは?

当院では無痛分娩希望の方について、初産婦さんは妊娠40週頃、経産婦さんは妊娠39週頃に、分娩を行えるように計画しています。
子宮口の所見が自然に分娩に向けて整っている状態であることを妊婦健診で判断し、およそ1週以内の分娩時期を妊婦さんとご相談します。医学的に早く分娩にした方が良い状況である場合には、より早い時期に予定を組むことがあります。

入院日:必要時には子宮頸管拡張処置を行います。
入院翌日:朝から陣痛促進剤点滴、あるいは子宮頸管熟化剤膣内留置を行います。陣痛が来たタイミングで硬膜外麻酔を開始します。

無痛分娩のメリットは?

硬膜外麻酔によりお産に伴う痛み(産痛)を緩和し、痛みではなくお産そのものに向き合い、リラックスして出産することができます。
特に、出産のストレスを軽減する必要のある持病(一部の心臓や血管の病気、過呼吸が悪影響を及ぼす可能性のある呼吸・神経疾患など)や血圧が高い方にはメリットがあると考えられます。
ただし、血液が固まりにくくなるお薬の使用中やお病気がある場合、背骨の変形が強かったり手術をされている場合など、硬膜外麻酔を行うことが難しかったり十分な効果が得られない場合もあります。出産後の創の縫合などの処置においても鎮痛効果が期待できます。

無痛分娩のリスクは?

1)お産への影響
子宮口が開いてから赤ちゃんが産まれるまでの時間(分娩第2期)が無痛分娩をされていない方と比べて長くなります。
また赤ちゃんが最後に産道から出る時に、鉗子分娩・吸引分娩などの器械を使ってのお手伝いが必要となる可能性が上昇します。

2)赤ちゃんへの影響
無痛分娩による赤ちゃんへの直接的な作用はほとんどありません。
お母さんの血圧が下がると赤ちゃんにも影響があるため、お母さんの安全を確保することが大切と考えています。赤ちゃんの治療が必要な場合は、当院の小児科医が担当します。

3)お母さんへの影響
無痛分娩の処置そのものによる影響と、分娩時間が長くなることなどに伴う影響があります。
無痛分娩の麻酔処置を行っている間は低血圧(血圧が下がる)、足の痺れや動かしにくさがしばしば起こります。血圧はモニターを行うとともに点滴からの輸液やお薬などで対応し、足の痺れや動かしにくさはお産が終わって麻酔を終了すると時間と共に回復していきます。 1%弱の方で硬膜穿刺後頭痛と呼ばれる1週間程度持続する頭痛が起きることがあり、安静や痛み止めの投与で対応します。気持ち悪さ、かゆみ、発熱、震え、尿の出しにくさなどは無痛分娩の影響で麻酔を用いない分娩より起きやすくなる可能性があります。症状の強さに応じてお薬を使用したりカテーテルで尿を出したりする処置を行います。合併症の詳細はこちら(PDF)からご覧になれます。東大病院では、無痛分娩に関する合併症が生じた際のシミュレーショントレーニングを定期的に実施しています。

無痛分娩の費用・申込について

通常の分娩費用に加えて麻酔時間が10時間以内の場合12万円、10時間超の場合15万円の追加費用(自費診療)がかかります。
この費用は、硬膜外麻酔を開始した時点で発生します。麻酔時間の長さや麻酔の効果により麻酔料金は変わりませんが、入院費用は入院日数により変わります。
もし無痛分娩中に帝王切開が選択された場合は帝王切開の費用がかかり、その分については保険診療の対象となります。 ご希望の方は、妊婦健診時に担当医にお申し出下されば、説明・同意書をお渡しします。同意書を妊婦健診時に医師にご提出頂くことで申込となります。計画分娩を予定するため、遅くとも妊娠37週までにご提出下さい。

産科麻酔チームからのメッセージ

産科麻酔チームでは無痛分娩だけでなく、帝王切開を受けられる方の手術前の診察、手術後の状況確認のための回診などを中心に周産期全体にわたって安全な麻酔を提供できるように活動しています。無痛分娩、帝王切開、その他のことでも妊娠中や出産時の麻酔に関して不明な点があれば気軽に産科麻酔チームにご相談ください。
東大病院では総合周産期母子医療センターという性質上、通常のお産から出血や合併症 のリスクの高い方まで多くのお産を取り扱っており、全ての妊婦さんに快適で思い通りのお産を経験して頂けるわけではありませんが、産科医・助産師と協力して皆様に安全はもちろんのこと、できるだけ快適なお産を提供できるようにチーム一同で取り組んでいます。